
監修:東北大学大学院 医学系研究科 内科病態学講座 呼吸器内科学分野 教授
杉浦 久敏 先生
COPDにおける最適医療を⽬指した治療概念“Treatable traits”の発展
近年、個々の患者によって炎症、酸化ストレス、⽼化など様々な病態が⼊り混じった多様な病態を呈することがわかってきたCOPDですが、それとともに治療への可能性も拓けてきました。様々な程度の可逆性を認める気流閉塞を伴う気道の炎症に着目し、その抑制も新たな可能性の⼀つです。そして、多様な病態を呈するCOPDの治療において、急速に発展しているのがTreatable traitsという治療概念です。
本コンテンツでは、このTreatable traitsについて解説するとともに、 Treatable traitsに沿ったCOPDの治療戦略について紹介します。
# 2 : COPDにおいてType2炎症に着⽬する意味
COPDの炎症は3種類に大別されますが、Type2炎症もそのひとつです。Type2炎症はCOPDのTreatable traitsだと考えられています。近年、
・ 「肺構造の変化は不可逆だが、気道壁の炎症による内腔狭窄は可逆的」
・ 「好中球性炎症の制御は困難だが、Type2炎症の制御は有効な治療手段が複数存在」
・ 「感染による増悪予防は困難だが、Type2炎症による増悪予防は可能」
であることが解明され、COPD治療においてType2炎症に着⽬する必要性があると考えられます。
従来の気管支拡張剤は対症療法ですが、Type2炎症の制御は一部のCOPD患者で原因治療となりえます。

COPD患者におけるType2炎症の割合とCOPD治療における重要性
海外の報告によると、COPDが安定している患者では、健常対照群と比較して、血中ILC2の有意な上昇が認められ、また、急性増悪のCOPD患者は安定型COPDおよび健常対照群と比較して、血中Th2細胞の有意な増加が認められたと報告されています。
また、喘息の既往歴のない40〜75歳のCOPD患者1,483例を対象とした研究では、37%にType2炎症が認められています。
このほか、Type2炎症は重度増悪および再⼊院のリスク上昇との関連性が指摘されています。
以上のことからも、COPD治療においては、Type2炎症への治療を念頭に置かなければならないと考えられます。


1)Singh D et al. Eur Respir J 2014; 44(6); 1697-700より作図
2)Vedel-Krogh S et al. Am J Respir Crit Care Med 2016; 193(9): 965-974
3)Bélanger M et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2018; 13: 3045-3054
[著者にサノフィ株式会社より助成金を受領している者が含まれる。]
COPD Type2炎症のバイオマーカーにおける好酸球とFeNOの重要性
COPDのバイオマーカーは呼吸機能検査、血液検査、質問票など多岐にわたります。その中で、Type2炎症において特に重要なバイオマーカーは好酸球とFeNOであり、増悪との関連が確認されています。また、好酸球数の増加はType2炎症を示すとも考えられています。
ー末梢血中好酸球数≥300cells/μLの中等症・重症COPD患者では増悪リスク・増悪の調整発生率比が上がる
ーFeNO≥20ppbで、中等度から重度の増悪のフォローアップリスクの上昇、≥35ppbで急性増悪と関連
COPDの増悪と治療反応を予測するバイオマーカー1)

BEC:末梢血中の好酸球レベル
Clinical utilization of airway inflammatory biomarkers in the prediction and monitoring of clinical outcomes in patients with chronic obstructive pulmonary disease, Yehia D et al, Expert Review of Molecular Diagnostics, 2024 May, Taylor & Francis, reprinted by permission of the publisher Informa UK Limited trading as Taylor & Francis Ltd, http://www.tandfonline.com.
1)Yehia D et al. Expert Rev Mol Diagn. 2024 May;24(5):409-421より改変、
110)Soter S et al. Inflammation. 2013 Oct; 36(5):1178-1185、80)Brutsche MH et al. Thorax. 2006 Aug; 61(8): 671-677、79)Zanini A et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015 Jun; 10: 1155-1161、81)Nerpin E et al. World Allergy Organ J. 2021 May; 14(5): 100544、102)Schumann DM. et al. Respirology. 2023 May; 28(5): 445–454、78)Safwat T et al. Egypt J Chest Dis Tuberc. 2023; 72(3): 313、116)Yamaji Y et al. J Breath Res. 2020; 14(2): 026007 、55)Patel PH et al. Bronchoalveolar Lavage StatPearls. 2022 Aug [cited 2024 Jan 11]、61)Vlahos R et al. Front Immunol. 2014; 5(SEP): 435、98)Río Ramírez MT et al. J Chronic Obstructive Pulmonary Dis. 2018 Jul; 15(4): 369–376
Type2炎症を伴うCOPD患者の特定の意義
COPDのバイオマーカーの研究により、Type2炎症は多岐にわたる検査によって特定できるようになってきました。
Type2炎症を有するCOPD患者においては、治療強化によって呼吸機能と症状の改善が認められたことから、Type2炎症を特定できればCOPD患者も治療強化が可能になります。

Yamaji Y et al. J Breath Res 2020; 14: 026007
一般社団法人日本呼吸器学会:タイプ2炎症バイオマーカーの手引き, p.81, 2023
Matsunaga K et al. J Clin Med 2020; 9: 3078 CC BY 4.0:https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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