
監修:東北大学大学院 医学系研究科 内科病態学講座 呼吸器内科学分野 教授
杉浦 久敏 先生
COPDにおける最適医療を⽬指した治療概念“Treatable traits”の発展
近年、個々の患者によって炎症、酸化ストレス、⽼化など様々な病態が⼊り混じった多様な病態を呈することがわかってきたCOPDですが、それとともに治療への可能性も拓けてきました。様々な程度の可逆性を認める気流閉塞を伴う気道の炎症に着目し、その抑制も新たな可能性のひとつです。そして、多様な病態を呈するCOPDの治療において、急速に発展しているのがTreatable traitsという治療概念です。
本コンテンツでは、このTreatable traitsについて解説するとともに、 Treatable traitsに沿ったCOPDの治療戦略について紹介します。
# 1 : COPDの疾患概念の変遷とTreatable traits
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、喫煙者が罹患する代表的な慢性呼吸器疾患で、喫煙者の15-20%前後が発病するとされています。以前は慢性気管支炎や肺気腫などの病名で呼ばれていました。肺病変は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に関与して形成されており、COPDが「肺胞が壊れる」だけの疾患としてみた場合不可逆なため治療はできませんが、肺気腫と慢性気管⽀炎をCOPDの病態としてみるならば、その病態形成の原因である「炎症」に着⽬し治療が可能な疾患となります。
COPD患者の肺には気腫病変が優位な場所、そうでない場所があります。実際に、肺右上葉に気腫病変が優位であっても、肺左下葉に気腫病変がない場合もあります。
CTで気腫は判読できますが、炎症病態は判読できません。つまり、CTで肺気腫が確認できたからといって、肺気腫だけが優位の病態とは限りません。COPDにおいては多⾓的な診断を⾏うことが重要です。

Agusti A. Thorax. 2014; 69(9) 857-864.より引用改変
⽇本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第6版 2022、メディカルレビュー社、2022
Treatable traitsとは
Treatable traitsとは、「最適な治療を提供するために、配慮すべき患者の形質・特徴を⽰す」という考え⽅であり、「病名ではなく、治療に反応する病態を重視すること」を意味します。患者の形質・特徴であるtraits(病態)を正確に捉えることで、治療法や介⼊のタイミングを最適化することができます。
『GOLD2025』では、 Treatable traitsに関して「臨床診療におけるCOPDの多様性と複雑性に対処するために、Treatable traitsに基づく戦略が提案されている」と紹介しています。
さらに、「Treatable traitsは、表現型(phenotype)の認識、及び/⼜は検証済みのバイオマーカーによる重要な原因経路 (endotype) の深い理解に基づいて特定できる(例:末梢⾎中の好酸球レベルが⾼い[バイオマーカー]と、吸⼊コルチコステロイドによる治療が最も効果的な、増悪のリスクがあるCOPD患者が特定される)」としています。
また、国内でも『タイプ2炎症バイオマーカーの手引き』の中でTreatable traitsに言及されており、「今後、この観点から病像を理解することが重要になる」としています。

たとえば、喘息におけるTreatable traitsをみてみると、「喘息」という病名が重要なのではなく、Type2炎症という治療可能な病態の特定が重要であることがわかります。
このように、病態を意識した治療を検討すべきです。

Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD). Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease. Updated 2025. 2024年11⽉27⽇確認.
goldcopd.org/zxz}-gold-report
「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」作成委員会, 日本呼吸器学会肺生理専門委員会 編. タイプ2炎症バイオマーカーの手引き. 南江堂. 2023;p.77
COPDのTreatable traits
COPDのTreatable traitsとして、呼吸機能(気管⽀収縮)、咳、痰、増悪、呼吸困難感などが挙げられます。これらのTreatable traitsには、治療薬として気管⽀拡張薬やステロイド、⽣物学的製剤などが治療法として対応していることがわかります。
患者の病態⽣理・症状から治療可能なtraitsを探していくことで、患者個⼈に適した治療が可能となります。つまり、患者を病名でみるのではなく、⼀つひとつの症状や病態を「治療が可能か」という視点で⾒直すことが重要ということです。

【監修】東北大学大学院 医学系研究科 内科病態学講座 呼吸器内科学分野 教授 杉浦 久敏 先生
COPDの病態
上皮が破綻すると、タバコの煙/汚染物質、アレルゲン、ウイルス、細菌の侵入が可能になり、一部のCOPD患者においてはILC2やTh2細胞などの発現増加が確認され、自然免疫応答と獲得免疫応答によるIL-4、IL-5およびIL-13などの炎症性サイトカインの活性化によってType2炎症が誘導されています。IL-4およびIL-13はType2炎症において中心的なサイトカインであり、末梢気道病変として気道壁の肥厚や線維化、平滑筋の増生や収縮、気道炎症や粘液産生、肺気腫形成や肺胞壁の破壊等に関与することが報告されています。

監修医からのコメント
東北大学大学院 医学系研究科 内科病態学講座 呼吸器内科学分野 教授
杉浦 久敏 先生
COPDは主にタバコの煙/大気汚染物質、アレルゲン、ウイルス、細菌などの刺激により、気道に好中球が遊走・活性化することが病態形成の主経路です。一方で、複数の表現型を有する複雑で不均一な気道疾患でもあるため、病態形成にはType2炎症が関与する場合もあると考えられます。
Type2炎症がもたらす、呼吸機能(気管⽀収縮)、咳、痰、増悪などのtraitsに対しては、様々な治療方法が検討でき、IL-4やIL-13を制御することもその選択肢のひとつです。
COPDは様々な要因で起こる多様な病態を有する疾患であるからこそ、治療においてはICSや生物学的製剤を用いたアプローチが可能なType2炎症の形質や特徴を検出・特定し、治療に役立てることがとても重要です。
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